成田航空科学博物館


2010年2月14日
 

 20年ぶりの成田航空科学博物館。余り期待はせずに行ったのだが、うれしい誤算だった。

 20年ぶり(?)の成田航空科学博物館である。
 YS−11の試作1号機が展示してあった他は目ぼしい機体があったような記憶が無いが、せっかくの長期東京出張の最中でもあるし、行ってみることにした。


 前回はどうやって博物館まで行ったのか、やはり記憶は定かではない。が、今回は京成成田から「日本一短い」芝山鉄道で終点の芝山千代田駅まで行き、そこからはバスに乗り換えて博物館へやってきた。










 お出迎えは富士重工のエアロスバルFA200。何の変哲も無い軽飛行機に見えるが、このクラスで低翼、しかもアクロバットまでこなせる機体は実のところかなり珍しい。さすが戦争中は戦闘機を量産した中島飛行機の末裔ではある。








 博物館前の広場には、およそ20機ばかりの機体が展示してあるが、はてさて、前回来た時もこんなだったっけ?
全てを紹介しても仕方が無い(中には興味の無い機体もある)ので、目だったところだけピックアップしておく。


 ロビンソンR−22ヘリコプタ、である。性能上は取り立てて目立つものは無いが、エンジンが他のヘリのようなターボシャフト(ジェットエンジンの一種)ではなく、レシプロエンジン(車と同じ)となっている。これにより価格及び整備コストを下げ、ヘリを一般的なもの、すなわち個人が所有できるものとした。実際のところ、その功績は大きいと思う。一般的に、軽飛行機の価格は車並みだが、ヘリの価格はその二桁上。ロビンソンはその中間である。おかげで数が増え、最近、日本で個人所有のヘリが落ちたというとロビンソンであることが多い。なお、R−22は二人乗りだが、4人乗りとしたR−44も存在する。




 ゲイツ社のリアジェット25、ビジネスジェット。スイスのピラタス社が自主製作した戦闘機のライセンスをゲイツ社が買い取り、主翼はそのままで胴体のみを新規設計、ビジネスジェットとしたものである。この機体はビジネスジェットの魁であり、胴体やエンジンを変えた幾つかのバリエーションがある。特にリアジェット35は米海軍や海上自衛隊でもU−35という名称で、標的などの曳航に使われている。元々が戦闘機の主翼なので、翼下にそれらのものを吊り下げるハードポイントを持っているのだ。これが純粋な民間機ならそうはいかない。





 カモフ26、ソ連製の9人乗りヘリコプタである。普通のヘリコプタは頭の上にあるメーンローターのトルクを打ち消すためにテールブームの先にテールローターを配置するのだが、この機体ではメインローターを二重反転としてトルクを打ち消している。
 欠点としては機構が複雑になるのだが、テールブームが無いのでキャビン及びその開口部を広く取れる利点がある。大型貨物の搭載には非常に便利だ。
 ちなみに、一般的なテールブームを持ったヘリで機体後方に開口部を持つのは川崎重工のBK117くらいしか思い当たらない。





さて、この3機が屋外展示の目玉であろう。
右からYS−11試作1号機(日本航空機製造)、FA−300(富士重工)、MU−2(三菱重工)である。
あれ?川崎重工が無いぞ?(笑)


 目玉の第一弾、YS−11の機内。客室後方から前方を見ている。試作機なので、座席などの旅客機らしい装備品は付いていない。右側のタンク状のものはバラストタンクだろう。この中に水を入れておいて、飛行中に重心位置を変化させるのだ。飛行機の重心位置は縦の操縦性と安定性に密接な関係を持つので、必ず飛行試験で確かめておかなくてはならない。








 上写真の奥の方、左舷側にチラッと見えているが、内装の一部をカットして構造部材を見せている。縦(上下)に通っているのがフレーム、胴体断面に合わせた円形又は半円形の部品であり、500mm程度の間隔で並んでいる。
 横(前後)に通っているのがストリンガ(縦通材)。航空機の胴体構造はこれらストリンガとフレームを井桁状に組み合わせて造りあげる。そしてねじりは外板で取るのだ。







 これは右舷側の前方に付いている計器板。これを写真で撮影することによって飛行中の各種データを記録するのだ。二昔前まではこのようなデータ取得方法が一般的だった。その他は、パイロット(又は計測員)による計器指示の手書き記録、くらいだったろうか。
 ペンレコーダ(それも感熱紙式)が出てくるのはこのもう少し後だと思う。







 目玉その2、富士重工のFA−300、試作1号機。今は無き米国ロックウェル社との共同開発だ。水平尾翼と垂直尾翼が十字型に配置されているのが外見上の特徴だが、それゆえの失速特性の不良(頭を下げない、下げると激しくロール)に悩まされた。











 垂直尾翼には誇らしげに富士重工のマーク(今は使われていないみたい)。日の丸の中に翼のマーク(決して富士重工の「フ」ではないw)だ。



 目玉その3、三菱重工のMU−2。解説には762機生産したとあるから、大したもんだ。車と違って、飛行機はこのくらい数が出ればベストセラーに近い。
 そして忘れてはいけないのが、ロールのコントロールにエルロンを使用せず、スポイラをもってしていることだ。これは同社のMU−300、T−2/F−1でも同様の構成となっているが、このクラス(分類)の機体で、スポイラ・コントロールとすることは考え方が間違っていると思う。










 垂直尾翼はこれまた誇らしげに三菱の社章、スリーダイヤのマーク。




 さて、館内に入ろう。













 と、その前に。青と銀の塗装も鮮やかなセスナ195。昭和22年からの生産とあるが、コブ付きのカウリングがいかにも古めかしい。











 中へ入るとまず、米国プラットアンドホイットニー社製の傑作エンジン、R−2800。空冷星型18気筒(9気筒複列)、46L、1900馬力。









下左の写真はR−2800のピストン。でかい! 下右はピストンのヘッド部と、バルブ。これまたでかい!
さすが排気量が46L(46000cc)もあると違うね。(当たり前か)




 これは英国ロールス・ロイス社製の同じく傑作エンジン、マーリン。水冷倒立V型12気筒、27L。出力は、最終的には2000馬力にまで達した。バトル・オブ・ブリテンでロンドンを守ったスピットファイア、WWUの傑作戦闘機P−51に搭載されたのはこのエンジンである。










 シリンダヘッドには誇らしげにRRとROLLS−ROYCEの文字が。



さてここで、面白い展示があったので並べて見てみよう。左が星型エンジンのピストンとクランクの動き。何だかヒトデがクネッているみたいだ(笑)。そして右は水平対向エンジンのピストンの動き。(クリックすると動画が見られます)
 

  この後、1Fには目星い展示も無かったのでそそくさと2Fへ上がる。すると何とそこには・・・


 な、何と、零式艦上戦闘機の操縦席(勿論模造品)ではないかぁ!!しかもどうやら座れるらしい・・・。










 右が操縦席からの眺め。正面にあるのは照準器、左右の下に黒く見えているのは7.7ミリ機銃(のダミー)である。この中で、しばし恍惚とした時間を過ごしたのは言うまでもない。あぁ、戦闘機乗り(ファイターパイロットではない)になりたかった。ラバウルの撃墜王と呼ばれるのなら・・・



 零戦の前には、ベルXS−1の機首部分、これまたレプリカである。解説するまでも無いと思うが、XS−1は米空軍チャック・イェーガー大尉により初めて音速を越えた機体である。
(実は彼には一度会ったことがある。その時、サインも貰った。我家の家宝だ
w)







 零戦同様、この機体もコックピット内へ入ることができる。右側面から這うようにして入るのは、実機も同様。かなり体をねじらなければ入れない。イェーガーは音速を突破した飛行の時には肋骨を骨折していたと言うが、さぞや激痛が走ったことだろう。




 中は非常に狭く、かつ前方視界は無いに等しい。この機体、離陸はB−29からの空中投下なので問題は少ないだろうが、着陸は通常の着陸である。こんな状態でよくもまぁ着陸できたもんだ。さすが名手、チャック・イェーガーといったところか。










 もう一つ、目を惹いた展示がこれ。太平洋戦争中に使われた、中島飛行機製の艦上偵察機、彩雲である。
 2000馬力の俊足に、スンナリした肢体の別嬪さん。わが敬愛する安永少尉(艨艟HPには何度か名前が出てくる)が、鹿屋の空から青春を賭けて共に戦った機体だ。
 あぁ、一度でいいから本物を見てみたいなぁ。







 博物館の最上階は展望室になっていて、成田空港の離着陸状況が一望できる。旅客機には興味薄なのでチラ見で帰ろうと思ったのだが、何と、間もなくエアバスA380が離陸するというではないか。見たことの無い機体、それも世界最大の旅客機となれば話は別である。モノクラスでの乗客定員850名は、「2機あれば小さな村を丸ごと移動させることができる」のである。
 総二階なので、妙に胴体が太短かく見える。また、そのせいで垂直尾翼の効きも良くないのだろう、通常のバランスよりも高くして面積を確保しているような気がする。
 しかしこの機体、重い。最大離陸重量560ton(!)なのだが、離陸距離が異様に長い(クリックで動画)。通常、離陸開始から高度50ft(ここまでの水平距離が定義される離陸距離である)まで30秒程度なのだが、こいつは40秒以上かかっている。おかげでリフトオフがえらく向こうになって、機体は点?くらいにしか見えていない。動画で分かるだろうか? (ちなみに滑走全ては長すぎ(重すぎ)てUPできないので、中間はカットしてある)



  余り期待せずに行った博物館だったが、零戦には乗れたし、彩雲は見たし、A380まで堪能できて、思いの他充実した一日であった。あ、そうそう。この日2/14はバレンタインデー、博物館受付のお姉さんにチョコを貰いました。
ありがとう。


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